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上山修平「今、聖書から問う──核利用の根にあるもの」(関西セミナーハウス・修学院フォーラム 第2日目)

20140113.jpg 関西セミナーハウスを会場に修学院フォーラム 第2回「福島原発事故を原点に据えて、 日本と世界の歩むべき方向を探る」の二日目の午前中に、上山 修平氏(日本キリスト教会 横浜海岸教会牧師)に講演をしていただきました。原子力エネルギーの問題を考え続けてこられた方の発言には聞くべき内容が多くありました。
 午後は、午後は終了の4時まで時間をかけて、総合討論を行いました。私は司会をしました。その間にも、お二人の講師から含蓄あるコメントを多数いただきました。姜 尚中先生からのコメントで印象に残ったものに、以下のようなものがありました。
1)「前向き主義」「楽観主義」には違和感を感じてきた。過去と向き合わず、断絶を避け、神の前に懺悔することを避けて、ただ未来志向を語ることは危険である。
2)「日本は唯一の被爆国であるから特別な使命がある」という言い方には注意が必要。このロジックによって、原子力の平和利用が進められてきた。
 今回のフォーラム全体を通じて、姜 尚中先生がクリスチャンの立場を明確に意識して語られていたのが印象的でした。著作の中で、それが暗示されている箇所はたくさんありますが、今回は、それをストレートな形で聞くことができました。全体の総括の発言が、イザヤ書53章の朗読で締めくくられたのも印象的でした。
 以下に上山先生の講演に対するメモをつけておきます(たくさんの資料が用意されていたため、このメモは必ずしも網羅的になっていません)。

「今、聖書から問う──核利用の根にあるもの」
上山 修平(日本キリスト教会 横浜海岸教会牧師)


はじめに
 昨年、足尾銅山を訪ねた。銅を精錬するための機械を作ることはできたが、その害をなくすための機械を作るのはそれ以上に大変であった、という説明を聞いた。3.11に先だって、問題の根はすでにここにもあった。
 高木仁三郎氏がいう「市民科学」の必要性を感じている。まず正確に知ること。その知識を踏まえた上で、信仰および聖書の視点から原発について考えていきたい。


I. 3つの現実から考える──放射線、組織、地震
 福島の事故の影響が今後どのようになっていくかは、チェルノブイリ後を見れば、かなりの程度推測できる。
1.放射能の恐ろしさとは

1)やっと百年──今なおすべてが分かったわけではない危険性
 1890年代に放射能が発見された。アメリカではエジソンが放射能の力を利用しようとした。人間の骨格が映し出される新奇さが見世物とされた。
 急性の障害と晩発性の障害の二種類があり、しきい値の問題がある。極小値であっても害性があることが、わかっている。ペトカウ『人間と環境への低レベル放射能の脅威』を参照。
 人工化学物質(環境ホルモン)は微量であっても人間に大きな影響を与える。
 放射線はDNAを分断するだけではない。直接放射線を浴びた人だけでなく、それが世代を超えて発症する場合がある。綿貫礼子編『放射能汚染が未来世代に及ぼすもの』参照。
 細胞分裂が活発に行われている部位に放射能が当たると危ない。DNAの損傷が消えないで残っていくことになってしまう。通常は、アポトーシスによって悪い細胞は自死する。
 放射線は、細胞分化のオン・オフのスイッチの部分に悪影響を与える。

2)しきい値のない危険性
3)「宝くじ」型障害──集団で考えなければならない危険性
 同じ放射線を浴びて、ガンになる人もいれば、ガンにならない人もいる。確率的障害である。かつては、小学生の胸部レントゲン撮影は当然のようになされていたが、今では、その弊害も認識されつつある。
4)生体内濃縮、内部被曝が問題──身体の中、細胞近くでの危険性
 生物は毒性を濃縮していく。それを人間の身体が取り込んだとき、大きな悪影響を受ける。濃縮されたものは、空気中において拡散する放射線より怖い。人間の体は自然のヨウ素と放射性核種ヨウ素131を区別することができない。市川定夫『新公害原論』参照。
5)20世紀に自然界初登場──昔はなかった人工放射性核種の危険性
 人工化学物質が大きな影響を生態系に及ぼしている。ミツバチの大量死。
 放射性核種において、微量の物質が人体に影響を及ぼすことはすでに知られていた。

2.ICRP(国際放射線防護委員会)の問題性
 1927年、放射線の生物学的危険性が証明された。許容量は切り下げられてきた。そのことは原子力の商業利用と関係している。ICRPは内部被曝を考慮していない。


3.日本に原発を作ることの無謀さ
1)「地震付き原発」──石橋克彦
 高橋哲哉『犠牲のシステム』において内村鑑三の天罰批判がなされているが、そこには違和感を感じた。内村の時代、地震のメカニズムはほとんどわかっていなかった。
 中曽根政権時代に原発建設が進められた。その時代は、地震の小康状態であった。
 地震多発地帯に原発を作っているのは日本だけ。

2)全原発停止では


II. 聖書から見えてくるもの
1.創世記11章1-9節 バベルの塔の物語
 神の介入を「罰」として考えるべきではなく、深刻な問題が起こる前になされた「恵みの介入」ととらえるべき。
 なぜ、ばらばらにされたのか。一つになる、ということ自体は必ずしもポジティブな意味を持たない。一つになって悪いことをする場合もある。

2.ローマの信徒への手紙 8章18-25節
 被造物のうめき。私はこれを被造物の「涙」と考えた。被造物の基本である原子核を人間は利用しようとした。

3.使徒言行録24章25節
 正義・節制・来たるべき裁き
 電気代と食べ物については「値段の高いもの」と理解しなければならない。正義と値段とを比べることはできない。

4.エレミヤ書25章
 「23年間語り続けたのに」

5.レビ記26章35節
 70年のバビロン捕囚をどのように理解すべきか。

6.創世記1章のとらえなおし
1)生きる空間としての天・地・水の意味の捉え直し
 ガイア思想はキリスト教では肯定的に受けとめられなかった。しかし、地球も「生み出す」という力を持っている。この部分を再評価すべきではないか。
2)人間が6日目に造られたことの意味
 人間を被造物の支配者とする伝統をどのように理解すべきか。6日までに造られたものがなければ、人間は生きることができない。人間の特殊性だけではなく、人間が自然に依存せざるを得ないことを理解しなければならない。
3)男と女に造られたことの意味
 異なる存在が共に生きる際の基本型。
4)7日目の意味
 7日目を「聖別」された。そして、神は憩われた([ヘブライ語] ネフェシュ=リフレッシュする)。


III. 展望と課題
1)空間的にも時間的にも高い倫理観が求められる。
 国境を越える必要性。
2)脱原発:原発利用から「降りる」(ausstieg)
3)高木仁三郎氏はキリスト者に期待していた。
4)ガラテヤ書6:7-10「人は自分で蒔いたものを刈り取る」

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