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金成隆一『ルポMOOC革命──無料オンライン授業の衝撃』(岩波書店)

 昨日紹介した小河原正道『日本の戦争と宗教』は過去と向き合うことを促す本ですが、今日は、教育の「未来」を考えさせてくれる本を紹介します。
 金成隆一『ルポMOOC革命──無料オンライン授業の衝撃』(岩波書店)です。著者は朝日新聞記者で、この本のベースになっているのは、しばらく前に朝日新聞で掲載された一連の記事です。著者の13年間の記者歴の中で、MOOC取材で、かつてないほどの興奮をおぼえたとのこと。震源地であるアメリカ、そして国内で先陣を切っている東大、京大の事例などを多数紹介しています。大学関係だけでなく、小中高生と対象とした新しいサービスの事例も紹介してくれています。
 MOOCとは、Massive Open Online Coursesの略で、MIT、ハーバード大、スタンフォード大などが火付け役となりました。
 オンライン授業なんて、もうずいぶん前からやっているのではないか、と思われる人も多いことでしょう。その通りです。私も10年以上前からやってきた一人なので、この分野については、最新の動向を追い続けていますが、MOOCは単にオンライン授業の普及というだけでなく、既存の教育システムそのものを大きく変える可能性を持っている点で、これまでのオンライン授業と次元を異にします。
 東大のエースとも言える、村山斉教授(ビックバンからダークエネルギーまで)や藤原喜一教授(戦争と平和の条件)がMOOCの一つであるコーセラで授業提供したことは、新聞等でも報道されました。実は私も登録して授業参加しましたが、コーセラは非常によくできたシステムであることがわかりました。とはいえ、大事なのはシステムではなく、講義の内容そのものであることは言うまでもありません。MOOCの広がりは、教育の質(そして、それを生み出す研究の質)を国際的な舞台で競い合う時代になってきた、ということを意味しています。
 本の中では、東大副学長の吉見俊哉教授へのインタビューも掲載されているのですが、彼の『大学とは何か』(岩波新書)などを読んでいる読者にとっては、彼の発言の中に、大学というシステムそのものが大きく変わろうとしているマクロな時代認識を感じ取ることができるはずです。
 オンライン授業に関心がなくても、教育の未来に関心のある方は、だまされたと思って、ぜひ読んでみてください。私も、この線で、もうしばらく、がんばるつもりなので。
 ちなみに、同志社大学はこの分野かなり(!)出遅れていますが、新島襄が今生きていれば、私に声をかけて、真っ先に飛びついていたはずです(笑)

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