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「【IT環境ランキング】インターネット授業で内容を公開する大学は教育力に自信がある」、『大学ランキング2005』朝日新聞社

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 なぜパソコンを使うのでしょうか。あるいは、パソコンを使うと何が変わるのでしょうか。学生の本業は勉強ですから、さしあたり、それに関連して考えてみましょう。
 昔から、それぞれの専門分野で知識を習得し考察を深めるためには、図書館で本を探し(あるいは実験をし)、本や実験から得た情報を自分の思考の中で整理・展開して、レポートや論文を書き記してきました。この基本スタイルは今も大きく変わるものではありません。つまり、適切なインプットがあってはじめて実りあるアウトプットが得られるわけです。
 コンピュータは、このプロセスを効率化したり、精緻化してくれるツールであると言えます。インターネットを使えば、大学図書館にある蔵書は言うまでもなく、世界中の情報にアクセスすることができます。また、得られた情報をデータベース化しておけば、紙媒体では到底できないような検索能力を発揮することもできます。ワープロ・ソフトはもやは単純な文字入力のためのソフトではなく、広い意味で文章作成支援のための機能を備えています。

 わたしたち一人ひとりの頭脳を取り替えることはできません。しかし、パソコンやインターネットは、人の頭脳を補助し、潜在的な能力を引き出し、より豊かなアウトプットを得る手助けしてくれるのであり、そこに最大の魅力があると言えます。
 このようなインプットとアウトプットとを手助けしてくれるIT環境を、大学はどのように整備しているのでしょうか。一つの着眼点は、ハードの面です。これまでも、学生1人あたりのパソコン設置台数や、LAN接続台数などは評価のための重要な基準とされてきました。これらは客観的な数字として出てきますから、評価基準としては一定の意味を持つと言えるでしょう。こうした数字が極端に悪い大学は、IT環境が十分でないと評価されても仕方ありません。
 ただし、パソコンがたくさんあることが、そのままIT環境の質を保証してくれるわけではありません。かつては、学生数に対しパソコン台数が不足気味でしたが、近年は、パソコン・メールよりも携帯メールの利用の方が圧倒的に利用頻度が高くなり、結果としてパソコンの稼働率が安定してきている、という現象が見られます。その意味でも、パソコンの台数だけを問題にすべきではありません。
 たとえば、無線LANの環境が整備されているかどうかは、IT環境のハード・パワーをはかる上で、新しい評価基準になり得るでしょう。ノートパソコンを所有している場合、それをキャンパス内のどこにいてもインターネットに接続して利用できるというのは、大きなアドバンテージになるからです。特定の教室に、ある定められた時間の間に行く必要がなくなり、キャンパス内で、いつでも、どこでもインターネット接続できるというのは、ユビキタス時代の標準環境となっていくはずです。

 IT環境を評価するためには、次に、ソフト面を見ることが重要です。これは数値化することが難しい場合が多いので、見えにくいかもしれませんが、IT環境が実際上、学生生活にどのように生かされているのか、ということです。具体例をいくつかあげてみましょう。
 入学すると、すぐに履修科目の登録をしなければなりません。従来は、分厚いシラバス(授業内容・計画)が渡され、希望する科目を登録用紙に記入していました。しかし、ITを活用している大学では、シラバスはCD-ROMとして配布され、また科目登録はオンラインでできるようになっています。それぞれの科目に対し、前年度の「学生による授業評価」の結果をウェブ上で公開している大学もあります。
 授業が始まると休講情報なども気になります。休講情報を含む掲示板上の情報をパソコンだけでなく、携帯電話でチェックできるようにもなってきました。図書の貸し出し状況をオンラインでチェックできるのも、今は必須の条件となりつつあります。
 ところが、このようなIT環境のソフト・パワーがどの程度充実しているかは、ハード・パワー以上に大学間の格差があります。入学前にそれを確かめるためには、各大学のウェブサイトにある在学生向けのページを見てください。そこで、たいていのことは、わかるはずです。
 単にパソコンを多数設置しているだけでなく、ハード・パワーとソフト・パワーを有機的に結びつけて、学生へのサービスを向上させようとしている大学の姿を「バーチャル・ユニバーシティ」と呼ぶことができます。こうしたトータルなイメージを大学が持っているかどうかも、今後、問われてくることでしょう。
 バーチャル・ユニバーシティの構想の核には、授業のオンライン化があります。2001年以降、インターネット等を使った遠隔授業も、60単位を上限として、単位取得可能な正規科目として認められています(通学制大学の場合)。慶応大学や早稲田大学は、早くから、この分野に力を入れてきました。たとえば早稲田大学は、インターネット講座「現代版早稲田講義録」を生涯学習の一環に位置づけています。料金を支払えば、誰もが早稲田の先生たちの講義を聴くことができるようになっており、無料サンプルも用意されています。
 また興味深いのは、比較的小規模の大学の中に、オンライン化を急速に進めているところが少なくない、ということです。信州大学のインターネット大学院は、すべての授業をインターネットで行う、ということで有名になりました。帝塚山大学は独自のeラーニングシステムであるTIESを2003年から一般公開しています。大阪芸術大学は通信教育部において、総合的な学習支援システムを使用しており(体験コースあり)、芸術系大学ならではのユニークなコンテンツを備えています。
 インターネット授業をセールス・ポイントにする大学は今後増えていくことでしょう。ただし、インターネットによる授業配信を行っていても、それを単位取得可能な科目として認定しているかどうかは、大学によって異なるので注意が必要です。いずれにせよ、インターネット授業では大学の教育の質がオープンになっていくので、それを積極的に進めている大学は「教育力」に自信を持っている、と言えるでしょう。