メディア・報道

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「読書の未来形」、『本のひろば』(キリスト教文書センター)2002年12月号

 わたしにとっては、これまで出会ってきた本より、これから出会う本の方が多いように思う。しかし、その出会い方は、ずいぶん変わってくるに違いない。本の購入方法は、近年、劇的に変化しつつある。かつては、洋書を取り寄せるには、丸善などの取次店を介して数ヶ月を要した。それだけに、注文していた本が届いたときには、まるで異世界の宝を手にしたようなときめきを覚えたものだ。
 それに比べ、インターネット上で国内外の本を注文できる今日の状況は隔世の感がある。洋書でも国内に在庫があれば、三日以内に配送されてくる。また、絶版本であっても、ネットワーク化された数々の古書店から探し出されてくる。サービスの充実したオンライン書店の出現により、本との出会いの可能性は格段に高まったと言えるだろう。あまりにも簡単に検索や注文ができるので、かつてと違い、秘宝を探し当てたような興奮は少なくなった。しかし、自分の読書空間が一気に拡大されたような快感は、インターネット時代ならではのものである。
 ところで、本の形態は将来、どのように変わっていくのだろうか。今日の印刷技術が、グーテンベルクの時代と比べ、飛躍的に向上したことは言うまでもないが、紙の上にインクをのせるという基本スタイルは変わっていない。しかし、紙を媒体としてきた本の形態は、今後、大きな変化を迎えようとしている。「eブック」と呼ばれる電子本が、市場に出回り始めている。たとえば、米国の大手オンライン書店で新刊書を注文しようとすると、従来の「ペーパーバック」「ハードカバー」の他、「デジタル」というエディションを見かけるようになってきた。「デジタル」の場合、その場でダウンロードして即座に読むことができるのだ。他方、表示部分が紙に近い材質でできている(つまり目に優しい)電子本の閲覧機器も出荷間近であるという。
 たくさんの電子本(辞書)を詰め込んだ軽量の閲覧機器を片手に闊歩することも夢ではない。絶版となっている古典的名著は少なくないが(図書館の蔵書には分解寸前のものもある)、それらはeブックとして復刊されるべきだ。新旧の書物が廉価に、かつ魅力的な体裁で提供されれば、若い世代からも新たな読者層が生まれてくるに違いない。本との出会いは、いつの時代も刺激的であるべきだと思う。