小原克博 On-Line

研究活動

研究活動

小原克博『宗教のポリティクス──日本社会と一神教世界の邂逅』晃洋書房、2010年

book201007.jpg[入試問題に出題]
※著作権の都合上、問題文は割愛しています

[紹介記事]
書評「小原克博『宗教のポリティクス』」(内藤正典)、『同志社時報』No.132、2011年10月

       目  次

序 論
 宗教と政治
 宗教と暴力
 世俗化とは何か
 世界は世俗化しているのか
 世俗主義の歴史的背景
 本書の目的

第Ⅰ部 近代国家にとっての宗教──近代日本を中心に

第一章 宗教を規定する政治力学──国家・科学との関係の中で
 はじめに──憧れと脅威のはざまで
 「宗教」概念の歴史的変遷
 近代日本における宗教と科学
 仏教と科学
 科学的および神話的世界観への適応
 進化論の受容から見える科学と宗教の共生関係
 総 括

第二章 近代日本における政教分離の形成
 はじめに──日本史と世界史の近代的接点
 日本の政教関係
 前提としての西洋
 「キリスト教」および「文明」理解の変容
 政教分離の前史──復古と維新
 政教分離の前衛――島地黙雷
 帝国憲法と教育勅語
 総 括

第三章 日本型政教分離の構造
 はじめに──西洋近代に対する抵抗原理の模索
 ヒンドゥー・ナショナリズムとの比較
 倫理・道徳と宗教
 宗教における世俗的権威の位置づけ
 真俗二諦
 ローマ書一三章
 近代日本のキリスト教と国家
 総 括

第Ⅱ部 グローバル社会の中の政教関係── 一神教世界を見据えて

第四章 一神教と多神教をめぐるディスコースとリアルポリティーク
 はじめに──ディスコースの政治力学
 日本における動向
 西洋における動向
 オリエンタリズム、オクシデンタリズム、リバース・オリエンタリズム
 見えざる偶像崇拝
 偶像崇拝をめぐる近現代のディスコース
 見えざる偶像崇拝と構造的暴力
 終末論と進化論
 総 括

第五章 宗教の多元化と多元主義――宗教の神学の課題
 はじめに──今日的課題としての宗教多元主義
 キリスト教世界とイスラーム世界
 宗教の神学の類型論とその課題
 排他主義
 包括主義
 多元主義
 多元主義モデルの問題点──置換主義
 包括主義の再考
 排他主義の再考
 総 括

第六章 信仰の土着化とナショナリズムの相関関係
 はじめに──近代国民国家における宗教
 ナショナリズムと宗教
 ナショナリズムに対する神学的洞察
 世俗的ナショナリズムと宗教的ナショナリズム
 近代化と信仰の「土着化」
 反西洋的なイスラームは孤立させるべきか
 総 括

結 論
 政教関係および宗教間対話の内実
 「キリスト教世界」への批判的考察
 愛国心の倫理的パラドクスと暴力の発現
 近代から現代への課題


序 論

宗教と政治
 日常会話において、特に初対面の人との会話において、触れない方がよい話題、会話のタブーとされる事柄が二つある。宗教と政治。これらは、人の信念に深く関与しているために、へたに議論して険悪な関係になるより、話題から除外しておいた方が無難だということだろう。しかし、ところ変われば、初対面で、いきなり「あなたは何を信じているのか」と問われることもある。どの宗教であっても、信仰心の厚い人々にとっては、宗教は自己のアイデンティティの基礎となっているだけでなく、異質な他者との関係を模索する重要な手がかりとなるからである。
 時としてタブーとなる事柄に、あえて積極的に向き合うことの意義は何であろうか。宗教も政治も、扱いを間違えれば、強い「拒絶」や「排除」の感情を生み出す。しかし、ひとたび信念レベルの関係が構築されれば、国境や人種の違いを超えて、相互の「受容」と「寛容」を生み出す。このように相反する極性を合わせ持つ対象を、できる限り客観的に見ることができれば、人間心理の不思議な深層を垣間見られるだけでなく、この世界が特定の価値観によって統合されたり、引き裂かれたりする歴史的現実を、より幅広く視野に収めることができるはずである。
 グローバル時代においては、宗教を個人の内面のみに限定して語ることが難しくなっている。その経緯については追って述べていくが、宗教を個人の内面的な事柄として、社会的・政治的領域から区分する考え方は、西欧の近代史においては安全保障上の利点があった。「拒絶」や「排除」をエスカレートさせることなく、互いの「受容」と「寛容」を保持するために、歴史的に築き上げられてきた知恵(たとえば、政教分離の原則)は、今も一定の有効性を持っている。問題は、その西洋の知恵を、どの程度普遍的に他の世界にも適用できるのか、という点にある。
 いずれにしても、宗教的な関心事と政治的な関心事を別々に扱うだけでは、現代世界が抱えている複雑な問題の細部に立ち入ることはできないだろう。本書では、宗教の中の政治的メカニズムや、政治に潜む宗教性、宗教と政治の関係に光をあてていきたいと考えている。とりわけ近代以降、国家主権との関係抜きに宗教を語ることはできない。宗教概念は、その内部からの自己規定と、近代国家による外部からの政治的規定の両方を否応なく引き受けている。このような宗教と政治の複合的な相互関係を問うことが、本書のタイトル「宗教のポリティクス」に込められた意味である。