研究活動

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パネルディスカッション発表「キリスト教と利他的実践」、フォーラム「共生社会と宗教──利他の実践は社会を救済するか?」(主催:同志社大学ソーシャル・イノベーション研究センタ

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1.利他的行為の聖書的根拠
1)隣人愛:「隣人を自分のように愛しなさい」(律法の最重要事項)。よきサマリア人のたとえ(ルカ福音書10:25-37)。「わたしの兄弟であるこの最も小さい者の一人にしたのは、わたしにしてくれたことなのである」(マタイ福音書25:40)。
2)イエスの倫理:共同体倫理ではなく、「個」への強いまなざし。徹底した利他性を帯びているが、既存の秩序に対しては脅威となる。例:「見失った羊」のたとえ「その一匹を見失ったとすれば、九十九匹を野原に残して、見失った一匹を見つけ出すまで捜し回らないだろうか」(ルカ福音書15:1-7)。「わたしが来たのは地上に平和をもたらすためだ、と思ってはならない。平和ではなく、剣をもたらすために来たのだ」(マタイ福音書10:34)。
3)キリスト教NPOの活動:カリタス(カトリック)から福音派(プロテスタント)まで

2.共生社会における宗教教育──(元)キリスト教社会における取り組み
「では、わたしの隣人とはだれですか」(ルカ福音書10:29)。
1)英国:Qualifications and Curriculum Authority (QCA)による宗教教育のガイドライン
 イギリスにおける六つの主要宗教、すなわち、キリスト教、仏教、ヒンズー教、イスラーム、ユダヤ教、シーク教を義務教育の間に学ぶよう指示。
2)ドイツ:「基本法」(1949年制定)第7条第3項「公立学校においては、宗教教育は正規の科目である。宗教教育は、国の監督権に関係なく、宗教共同体の基本理念と一致して行われる。」
 上記「宗教共同体」は当初、カトリック教会とプロテスタント教会を意味していたが、今日では、無宗教者やムスリムも視野に入れたカリキュラム作りがなされている。
3)アメリカ:アメリカ宗教学会による宗教教育のガイドライン(2010年):公立学校の世界史、アメリカ史、社会、英語(英文学)、地理などの授業の中で宗教を教えるための教師向け手引き書。

3.利他的実践の功罪:「(自己)犠牲」の両義性
1)個人的次元:利他的な奉仕を促す。
2)社会的次元:共同体(国家を含む)への犠牲を要求し、正当化する場合がある。
「愛国心はそのなかに倫理的パラドクスをもっており、最も鋭い凝った批判でなければいかなる批判も受けつけないものである。そのパラドクスとは、愛国心は、個人の非自己中心主義が国家の利己主義に転化する、ということである。国家への忠誠心とは、もしより低い忠誠心や地方的利害などとくらべるならば、それは高度な利他主義の形態である。(中略)このようにして、個人の非自己中心主義は、国家の自己中心主義を助長するのである」(R. ニーバー『道徳的人間と非道徳的社会』1932年)。