研究活動

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書評「内藤正典著『イスラム━癒しの知恵』」、『同志社時報』No.132、2011年10月

 世界人口の四分の一近くを占め、現代世界に多大な影響を与えるイスラムに知的好奇心を抱いている人は多い。しかし、イスラムから積極的に学び、それを我々の生き方を見直す糧としている人はどれくらいいるだろうか。本書は、我々がよりよく生きるための知恵の宝庫としてイスラムを紹介する実践の書である。イスラムの「癒しの知恵」を知ることによって、読者は既成のイスラム像、特に過激・厳格といったイメージを修正させられるだけでなく、イスラムの魅力を著者と共に味わうことになるだろう。
 本書では、日常生活にかかわる具体的な事例が多数取り上げられている。全体を通じてわかるのは、ムスリムは決して無理をせずに、時には自分の欲望に素直になり、互いを支え合う共同体を持っているということである。本書冒頭で取り上げられている自殺の問題は、日本社会とイスラム社会のコントラストを明瞭に示している。年間三万人を超す自殺者を生み出す日本社会の問題は深刻そのものである。では、なぜイスラム社会では自殺者が少ないのか。「神にゆだねる」ことによる思考停止は、自分を必要以上に追い詰めない。また、イスラム社会は「助けて!」と叫べる社会である。自己責任の重荷を背負わされ、我慢することが美徳とされる社会とは、ずいぶん違う。随所に挿入されている著者の体験談は、かなりおもしろい。著者はムスリムではないが、その生き方の知恵を体得していることがわかる。
(同志社大学 神学部 小原克博)