小原克博 On-Line

研究活動

研究活動

講演「動物と人間の関係──日本文化と一神教文化から見える多様性」、テュービンゲン大学同志社日本研究センター・同志社大学 一神教学際研究センター主催 公開講演会「動物・妖怪の文化比較─日本文化と一神教文化をめぐって」、同志社大学 今出川キャンパス


1.動物と宗教

1)媒介としての動物

  • 超越的なもの(世界)と人間をつなぐ媒介としての動物(穀物)
  • 人類史的な尺度から見ると、動物供犠を中心とする犠牲の祭儀(供犠)が「宗教」そのものであった。

2)供犠の文化と供養の文化

  • 供犠の文化:犠牲獣(victim)の破壊を通じて神が顕在化。殺す文化。神と人の非連続性。一神教文化。
  • 供養の文化:神(々)との共食(動物・穀物)を通じて神が顕在化。食べる文化。神と人の連続性。多神教文化。

3)宗教学の人間理解と近年の探求

  • 西欧の宗教学では、人間と動物を分けるものとして「宗教」を規定した(デュルケーム、エリアーデ等)。宗教の起源:「動物性」の終わり。
  • 近年における人間の起源の探求:人間と動物の連続性の発見。遺伝学、霊長類学、考古学、社会人類学、進化生物学などを通じて。

2.一神教および西洋文化における動物観

1)一神教における動物供犠(犠牲)

  • ユダヤ教:バビロン捕囚以前(神殿を中心とした動物供犠)、以降(動物供犠+律法)、第二神殿の崩壊(70年以降)以降(律法)
  • キリスト教:ユダヤ教とのライバル関係の中で、非犠牲(供犠)的な集団として出発。それゆえ、ローマ帝国からは「無神論」的な集団と見なされた。
  • イスラーム:犠牲祭(マッカ巡礼のクライマックスの日である第12月の10日)では、羊などが屠られる。イブラーヒーム(アブラハム)が息子イスマーイール(イシュマエル)を犠牲にしようとした伝承(Q37:102-107)に基づいている。

2)西洋における動物観(キリスト教前史)

  • ピタゴラス学派、オルペウス教、犬儒(キュニコス)派:輪廻転生の考えを持ち、動物供犠を拒否。動物も人間も魂を持つと考えた。
  • マニ教:輪廻転生の考えを持ち、植物を動物より高次にあるものと考えた。植物の方が、より霊的な要素を持つと考えた。
  • ストア学派:人間だけがロゴスを有するとし、動物との違いを強調した。

3)初期キリスト教の動物観

  • 人間と動物の根本的相違(旧約聖書とストア学派の影響)
  • 動物供犠の廃止(屠殺の世俗化)
  • メタファー(隠喩)としての動物の利用

3.日本文化における動物観

1)特徴

  • 東アジア一帯で行われていた祈雨等のための動物供犠が日本では姿を消し、反対に放生や殺生禁断令が、その目的のために採用された。
  • 仏教以前の土着的観念の上に、仏教的な輪廻思想と不殺生が作用した。
  • 古代社会では立春から秋分まで死刑が禁じられていた。人間のいのちと動物のいのち、自然のいのちは根源においてつながっていると理解されていた(アニミズム的生命観)。

2)動物供養

  • 近世以降、積極的に行われるようになる。鯨、ヒグマ、・・・

3)動物と人間の「対称性」の崩壊

  • 日本には、動物と人間の共生を語る昔話が多数存在する(特にアイヌの神話)。人間と動物は会話をし、結婚し、仲間となる。人間が動物を犠牲にしなければ生きていないことに対する痛みと感謝をおぼえる回路を、かつては持っていた。
  • 技術力の進展による、動物と人間の「対称性」の崩壊、そして動物の家畜化。

4.結論(問題提起)

  • 人間を特権化する近代的「宗教」概念の再考
  • 文化ナショナリズムに陥らない文化比較
  • 人間の「動物性」(身体性)を排除しない人間観・歴史観
  • 近代的な犠牲のシステムに対する批判的考察── 国家、工場畜産

【参考文献】(主要なもののみ)

原田信男『神と肉──日本の動物供犠』平凡社、2014年。

中村生雄『祭祀と供犠──日本人の自然観・動物観』法蔵館、2001年。

 ───『日本人の宗教と動物観──殺生と肉食』吉川弘文館、2010年。

Robert N. Bellah, Religion in Human Evolution: From the Paleolithic to the Axial Age, Belknap Press, 2011.

Celia Deane-Drummond et al. ed., Animals as Religious Subjects: Transdisciplinary Perspectives, Bloomsbury T&T Clark, 2013.

John Dunnill, Sacrifice and the Body, Ashgate, 2013.