KOHARA BLOG

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靖国問題

 今日、宗教学6「戦争・正義・平和―宗教多元社会の中で」の最後の授業を行いました。来週は香港にいるので、来週は休講にしています。
 この授業は「神学部オープンコース」の科目にもなっていますので、インターネット経由で、様々な方々に見ていただいています。わたしは、こういうことを推進しておきながら、実は、ディスプレイと90分向き合って講義や講演を視聴するという経験を一度もしたことがありません。ですから、毎回、きちんと見てくださっている方々からのメールをいただくと、動画配信をやっていてよかったと思うと同時に、その集中力に感心させられます。

 今日は日本の近代史、特にナショナリズムや大東亜共栄圏イデオロギー、聖戦、国家神道などについて触れました。しかし、最終回ということもあって時間の余裕がなかったため、「とにかく、これを読んでください」とお薦めしたのが、高橋哲哉『靖国問題』(筑摩新書)です。
 この本は、非常によく売れていると聞きますが、それが納得できるだけの内容があります。まず何と言っても、わかりやすい。第一次資料を丁寧に参照しながら、それを分かりやすく分析し、同時に、全体的な歴史的文脈の中に性格にその分析をマッピングしていきます。

 伝統的な神道が、どのようにして国家神道へと作り替えられていったのか。また、靖国の歴史を振り返ると、靖国と関係している戦争が決して太平洋戦争だけではないこと、日本の戦争責任を太平洋戦争だけに限定することは、問題を矮小化することになりかねないことを教えてくれます。キリスト教や仏教などが、国家神道に巻き込まれ、ナショナリズムに積極的に奉仕していった有様も描写されています。

 叙述内容については異論を唱えたくなる人もいることでしょう。しかし、その是非はともかくとして、靖国問題の論点を明晰に整理している点で、非常にすぐれた本であると、わたしは思います。

■Amazon, 高橋哲哉『靖国問題』
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