KOHARA BLOG

KOHARA BLOG

CISMOR 公開シンポジウム「中間選挙後のアメリカの政治と社会」

20110115_4.jpg 1月15日(土)、以下のような内容で CISMOR 公開シンポジウムを開催しました。

中間選挙後のアメリカの政治と社会
[モデレーター] 村田晃嗣(同志社大学 教授)
[パネリスト]会田弘嗣(共同通信社 編集委員室長)、飯山雅史(読売新聞調査研究本部 主任研究員)、佐々木卓也(立教大学法学部 教授)、森孝一(神戸女学院 理事長・院長)
【共催】同志社大学 アメリカ研究所、同志社大学 神学部・神学研究科 
【後援】共同通信社、読売新聞社、京都日米協会

 今回のシンポジウムでは、やはりティーパーティのことが繰り返し言及されました。また、先日のアリゾナでの銃撃事件、オバマ大統領のスピーチ、なおも続く等は的な対立手についても話題になりました。
 不十分ながらメモを取っていますので、関心ある方はご覧ください。

20110115_1.jpg

■折り返し地点を迎えたオバマ外交──その成果と展望
佐々木卓也(立教大学 法学部教授)

1.歴代政権の外観
 中間選挙までの2年間で外交上の成果をあげることは難しい。唯一の例外はカーターか。しかし、カーターはその後失速し、再選されなかった。

2.オバマ政権の主な外交イニシアティブとその曖昧な成果
 久保文明編著『オバマ政治を採点する』(日本評論社、2010年)において外交を見ると、外交はBの評価がつけられていた。それには同意できる。めざましい成果はないが、全体的はよい成果をあげている。
 国家安全保障戦略文書(2010年5月)。前政権との違いを際立たせようとしている。しかし、実際の政策では重複している部分も多い。
 イスラム世界との新たな関係の再構築。
 中東への関与。
「核なき世界」への表明。これは究極的な目的であって、現実的な課題は核不拡散と核軍縮。核拡散の防止は優先度が高い。
 対ロシア関係の「リセット」。
 中国との戦略対話。ブッシュ政権時代からの連続性。昨年春のQDR2010では、対中警戒論が述べられている。
 対日関係の停滞。
 米欧関係の静穏さ。ヨーロッパの戦略的重要性は低い。問題のないことが問題? ヨーロッパから見ると、アメリカはヨーロッパに関心を持っていないように見える。
 アメリカの対外イメージの改善。これがオバマ外交の最大の成果かもしれない。

3.中間選挙の敗退
 結果的に、国内的な制約が高まった。

4.今後の展望
 経済回復の遅れ。1兆ドルの財政赤字。
 議会における対立が高まっている。
 中東問題の困難さ。アフガニスタンからの撤退は計画されているが、それがスムーズにいかなかった場合のオバマ政権への影響は大きい。核をもつパキスタンがガバナンスを発揮できるのか。


20110115_2.jpg
■ティーパーティーと福音派
飯山雅史(読売新聞調査研究本部 主任研究員)

・宗教伝統系別ティーパーティー支持率
福音派50パーセント、主流派は30パーセント強
黒人プロテスタントの支持率は非常に低い。反感を持っている。

・ティーパーティー運動の支持との相関係数
同性愛 .307 同性愛の批判者はティーパーティーの支持者とわかる。
共和党 .485
民主党 -.338
連邦政府 -.225

・所得階層別
高所得の人はティーパーティーへの支持率が高い。低所得者層にとっては、あまり大きな関心となっていない。

・学歴別
あまり相関性がない。

・イデオロギー別
リベラル派は不支持。保守派の支持率は高い。

・政党支持別
共和党支持者はティーパーティーの支持者。

 ティーパーティーは超党派的な性格が強調された時期もあったが、実際にはイデオロギー、政党との関係が強い。

・ティーパーティー支持に関する回帰分析
 標準化係数が圧倒的に高い項目はイデオロギー。福音派であるかどうかも相関関係がある。

 イデオロギーの中核にある財政問題を中心に、ティーパーティーの運動は始まった。宗教保守層とティーパーティー運動との重なりを指摘することができる。
 福音派はこれまで中絶問題を精力的に取り上げてきたが、ティーパーティーではなぜ、その問題を取り上げないのか。
 1970年代頃には、中絶問題は保守派のパッケージの中に入っていなかったが、それが徐々に保守派のパッケージの中に入っていく。政党、人種問題、大きな政府に関して保守的な人は、中絶問題に対しても保守的。
 なぜ中間選挙では、宗教的な問題が論点とならなかったのか。宗教保守のテーマは拡大しているが、まだdivisive な側面を持っている。保守層を割る危険性。選挙で負けると、宗教保守は責任をとらされる場合が多い。
 前回の大統領選挙においても、敗因の一つを過激な宗教保守の存在に求められた。したがって、中間選挙では宗教的テーマを持ち出すことができなかった。


20110115_3.jpg
■2010中間選挙後のアメリカ──ティーパーティー運動の思想背景
会田弘継(共同通信社 編集委員室長)

 ティーパーティー支持者は全投票者の40パーセントを占めるに至っている。
 共和党支持者が多いというのは結果的な話。ティーパーティー運動は最初、ブッシュ政権に対する反発として起こる。共和党も自分たちの敵ではないかという思いを抱いていた。それが共和党側に組織化されていく。
 リバタリアン運動であり、ポピュリズム運動である。アメリカ史において定期的に現れる。30年周期程度で現れている。景気動向の波と関係があるかもしれない。景気が悪くなるとリバタリアン運動が起こっているのではないか。
 ポピュリズム運動とは何か。
Images of conflict between the powerful and the powerless.
Elites who ignored, corrupted and betrayed the core ideal of American democracy.
Powers that are transgressing the nation's founding creed.
American populism binds even as divides.

 右においても左においても、個人の領域を求める運動が拡大してきた。ティーパーティーの起源については、様々な説明の仕方がある。


■ティーパーティーと福音派の多様化
森 孝一(神戸女学院 理事長・院長)

宗教右派はどこにいったのか。ティーパーティーとの関係は?

中間選挙の争点:経済、健康保険
White Evangelical でさえ、中絶・同性婚よりも経済や小さな政府を優先した。

Public Religion Research Institute による調査(2010年10月)
ティーパーティーの47パーセントが宗教右派か保守派キリスト教運動。
※この調査には欠陥がある。福音派の多様化に気づいていない。Conservative Christian movement 22パーセント、religious right 11パーセント。しかし、この調査自体はおもしろい。

ティーパーティーの47パーセントがChristian Conservative
有権者のうち5パーセントが福音派であり、ティーパーティーのメンバー。

Christianity Today に2010年度の10大ニュース
 中間選挙は4番目にあがっていた。説明:オバマの医療保険が実現すると、国家財政による中絶が行われる可能性がある。民主党内のPro-Life議員が半減。ティーパーティーに対しては距離を置いている。

多様化した福音派の現状
1)政治参加に積極的ではない。魂の救済を重視。
2)ローカルな政治問題に関わっていく福音派(宗教右派)
  グローバルな問題に積極的にかかわる福音派
  Richard Cizik, Joel Hunterなど
  Jim Wallis、Radical Evangelicals として知られていた。ベトナム戦戦争反対など孤立の戦いをしていたが、現在では、God's Politics などの著作を通じて、今では広く知られている。


■パネルディスカッション
村田)アリゾナの銃撃事件で、その原因の一つにティーパーティーの存在があげられている。ペイリンが「弾を込めよ」という攻撃的な発言をした。

佐々木)オバマはとてもよい演説を行ったと思うが、お互いが責任をなすりつけあって、かえって党派的対立が進むのではないか。

飯山)大きな政府、小さな政府は理性で議論できるが、宗教の問題は感情的になりがち。宗教的な対立がイデオロギー的対立に一体化すると、問題が激化する恐れがある。エモーショナルな要素が持ち込まれていくと、ディスコースがとげとげしくなっていく。そうした土壌から今回の事件は起こったのではないか。

会田)連邦ビル爆破事件は、リバタリアン的な運動の影響があった。今回の事件も、そうした時代のサイクルの中で見ることができるのではないか。オバマの演説にもかかわらず、党派的な対立はいまだに激しい。人々がある事象を忘れていくサイクルが早くなっている。2年目にあれほどオバマに熱狂した人たちが違う行動をとっている。90年代と同じパターンを繰り返すとは言えない。

森)銃規制について。日本のマスコミは、アメリカは銃規制すべきだと主張するが、それは短絡的すぎる。日本では豊臣秀吉以降、銃を持つことはお上のみに許される。しかし、アメリカでは自衛権として認められてきた。きめの細かい銃規制をすべきではないか。

村田)2012年、アメリカをはじめ、多くの国で国家主席の選挙が行われる。経済不況の中、オバマにとって厳しい状況。しかし、対抗できる人物がいるわけでもない。次の大統領選挙についてどのように考えるか。

佐々木)共和党には確かに有力は候補者がいない。

飯山)1960年代から無党派が増えてきている。無党派の動向によって選挙の結果は決まる。無党派は保守か穏健派。中間選挙では、オバマはリベラルと見なされて負けた。中道としてやってきたがリベラルと見なされたので、中道を目指す修正を行うはず。単なるリベラルではないというアピールをするだろう。共和党も、ティーパーティーが過激な方向へ走らないようにコントロールする。

会田)選挙は景気動向の影響が大きい。オバマもカーターの二の舞となる可能性は十分にある。共和党:民主党:無党派=4:4:2と昔は言われていたが、現在では3.5:3.5:3と言われるほどに、無党派層の影響が強くなっている。

森)福音派は全有権者の25パーセント。この割合は安定しているが、内部では多様化が進む。単独のグループが全体を支配することはないだろう。


■質疑応答

・中間選挙の結果について
飯山)クリントンの例もあるので、中間選挙で大負けしても、大統領選挙で勝つ可能性はある。

森)政権交代したときに期待した人々が離れた。世論を変えていく可能性はまだある。

会田)アメリカ経済を立て直すことは簡単ではない。ルーズベルトの時代とは異なる。アメリカの中だけの経済の見直しでは間に合わないようなグローバルな状況がある。根源は世界経済の中にあるのに、人々は足下しか見ない。ルーズベルトの時代と違う人々の勇気づけ方をまだ見つけていない。

村田)失業率が改善したと言われているが、実際には9パーセント以上と言われている。ティーパーティーが内向き傾向に拍車をかけているように見えるが、これがアメリカの外交にどのように影響を与えるだろうか。

佐々木)ティーパーティーが関心を持っているのは移民の問題。対外的に関心があるのは、おそらく移民問題だけだろう。外交政策にはほとんど関心を持たない。

村田)グローバルな問題に関心を持っている福音派に外交政策に関心を持つ人々はいないのか。

森)そうした人々はいる。しかし、大統領選挙の際、外交問題は重要視されない。プライオリティの順序としては、経済、道徳、外交となるのではないか。

・質問:共和党の経済政策について
飯山)共和党は小さな政府を主張。健康保険改革を進めるのは大きな政府。10兆ドルもの税金を使って救済されるのは主として黒人。白人からすれば、自分たちの所得を黒人側に移動するものとして映る場合がある。

・質問:ティーパーティーは膨大な軍事予算をどう考えているか。
村田)国防予算の削減には取り組んでいる。しかし、イラク、アフガニスタンに問題をまだ抱えている。

月別の記事一覧