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葛原茂樹「高齢者の終末期医療とケアを考える」(関西セミナーハウス)

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 5月12日に関西セミナーハウスで、葛原茂樹先生による講演「高齢者の終末期医療とケアを考える」がありました。私は企画者だったので、全体の司会進行を務めました。会場は、セミナーハウスの能舞台。ここでの講演は私にとってははじめてだったので、とても新鮮でした。
 最初に、日本の高齢化のスピードが他国と比べ、格段に早く、それに日本社会が十分に対応できていないことが、テーマとなった終末期医療をめぐる問題の背景として詳細な統計データと共に述べられました。さらに葛原先生は、自らが訪ねたスイスの特別養護老人ホームの様子を具体的に示しながら、ヨーロッパと日本の現状の違いが何に起因するのかを参加者に問いかけられました。
 後期認知症患者が嚥下障害などを起こすと、ほぼ自動的に胃ろうが造設され、結果的に寝たきりの患者を増やすことになっている日本の現実と、寝たきりの高齢者がほとんどいないヨーロッパの現実との対比を通じて、日本の高齢者医療・介護の問題点が明確にされていきました。ヨーロッパでは、本人による事前の意思表示と自然死の受容が一般的になっていますが、日本で同様のことを実施するには、まだ様々な困難が横たわっています。しかし、今年一月に日本老年医学会が、胃ろうをはじめとする延命治療の差し控えの可能性について言及したことから、変化の兆しが現れているということも語られました。
 自己紹介および討論の時間を通じて、参加者が抱えている切実な実情が語られると同時に、それに対し、講師だけでなく、参加者の中にいた医療・福祉関係者の多数がそれぞれの視点から意見を述べ、非常に充実した対話の時間を持つことができました。講師は日本の宗教伝統や死生観が現代医療にもたらしている影響についても言及してくれましたが、その点については十分に深める時間を持つことができなかったので、今後の企画において検討していきたいと思っています。
 非常に考えさせられ、充実感のある一時となりました。終末期医療の切実な現実に向き合うための何らかの手がかりのようなものを、日本の宗教界も示すべきであると思いました。

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