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修学院フォーラム「原子力発電の根本的問題と我々の選択」(関西セミナーハウス)

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 10月7日〜8日、関西セミナーハウスで修学院フォーラム「原子力発電の根本的問題と我々の選択」が開催され、私は企画者の一人として参加しました。このテーマのために、北澤 宏一(独立行政法人科学技術振興機構顧問・前理事長、 福島原発事故民間独立調査委員会委員長)、栗林 輝夫(関西学院大学法学部教授)の両氏を講師としてお招きしました。
 10月8日(月)は休日(体育の日)だったのですが、同志社大学は開講日のため、午前中、京田辺キャンパスでの講義に出かけなければなりませんでした。結果的に、栗林先生の話をまったく聞くことができませんでした。下に、一日目の北澤先生の講演のメモをつけておきます。
 関西セミナーハウスが主催する一泊セミナーは、話し合いの時間をたっぷりとる点に特徴があります。今回も講師の先生方と、あるいは、参加者同士で充実した話し合いの機会を得ることができました。
 北澤先生は、超伝導の世界的な権威。超伝導ブームの火付け役として知られています。物理学者が、科学政策にとどまらず、経済や社会問題までを様々なデータを駆使しながら説明する様は圧巻でした。一流と呼ばれる人は、さすがに違うな〜とたびたび感心させられました。

 なお、関心のある方には北澤先生の著書『日本は再生可能エネルギー大国になりうるか』をお勧めします。非常にわかりやすく、原発問題の全体像や、再生可能エネルギーの可能性について述べられています。


エネルギーを考える──科学・技術の立場から、民間事故調からの報告
北澤宏一(独立行政法人科学技術振興機構顧問・前理事長、 福島原発事故民間独立調査委員会委員長、東大名誉教授)

 原発事故の直後に原因調査をすることは難しかった。半年後に民間事故調を開始した。

■原子力はなぜ素晴らしいのか?
 核分裂のエネルギーは同じ重さで石炭や石油の化学反応の100万倍。自然界は、小さくなればなるほど大きなエネルギーを持っている。100万kwの原子力では、一日に3kgの燃料を使うのに対し、火力発電であれば数千トン必要となる。
 宇宙は核融合のエネルギーで動いている。地球はそうした太陽のエネルギーで生かされている。高エネルギーは核エネルギーが支配している。根源的なエネルギーとして、学問の世界でも魅力がある。
 ウラン239がほとんど。ウランは分裂するとプルトニウムに。どんどんエネルギーを生み出す。高速増殖炉(夢の原子炉)は、多くの研究者にとっては諦めきれない魅力がある。

■核燃料サイクル
 分裂していく際に、必要ではない放射性物質が出てくる。10万年放射能がなくならない放射性物質がある。10万年前、ネアンデルタール人の時代。10万年後の人類に、放射性物質の危険性を伝えることができるだろうか。
 フィンランドは、ロシアからエネルギー的に独立するために原子力に依存せざるを得ない。危険な放射性物質を保存する際に何語で説明を書いたらよいかという議論の中で、ロシア語で書いたらどうかというブラック・ジョークがある。

 福島第一原発では、沸騰水型原子炉を使っていた。圧力容器の中で水が沸騰し、タービンを回す。

■福島原発事故独立検証委員会(民間事故調)
 政府と東電だけが報告書を作ったのでは信頼性がない。民主主義国の責任かつ特権として、民間事故調を立ち上げた。当初、権限もなにもない民間事故調に何ができるのか、ということも言われた。
 若手ワーキング・グループに30名がいた。結果的に、これが功を奏した。有識者委員会6名が責任をとるという形をとった。東電はヒアリングに応じなかった。しかし、東電のOBらはヒアリングに応じた。
 民間事故調ができたときにマスコミの関心となった。2012年2月の頃には各紙で取り上げられ、一定の影響力を与えることができた。

福島原発事故
 1000年に一度、今回の規模の大地震が起こっていることがわかっている。津波が500キロの長さ、1キロの奥行きで東北を襲った。
 16万人ほどの人々が、放射能汚染のために故郷を離れた。
 過酷事故のあと、燃料棒を冷やし続けなければならない。そのために一時間当たり数トンの水が必要。冷却水喪失し、燃料棒損傷、メルトダウンへと続く。
 非常用の冷却装置が働かなかった。冷却装置が止まっているということに気づかなかった。海水を原子炉の中に注入。しかし、この決断は遅れて、事故の拡大につながった。
 原発は、水がないと暴れだす。多重のブレーキがかかっているという安心感があったが、実際にはブレーキのいくつかはかかっていなかった。

■最悪のシナリオ
「最悪のシナリオ」の存在が明らかに。水素爆発し、使用済み燃料プールが露出。何年分もの使用済み燃料がためられていた。そこからも放射能が漏れ出ていた。事故後、多くのアメリカ人が国外へ脱出した。たまたま水があったために、4号機の放射能漏れは防がれた。
 民間事故調の指摘のポイント。内部の圧力を外に出すベントが必要であった。しかし、ベントの判断は遅かった。
 民間事故調は権限がないので、インタビューをしても誰もしゃべってくれないのではという危惧があったが、実際にはできた。自分一人が流れにさおを差しても効果はないだろうという無力感が、インタビューでは語られた。
 使用済み燃料の保管場所は、3年から17年ほどで一杯になる。

■人口変動
 チェルノブイリの事故以降、ウクライナの人口動態は大きく変化した。大幅な人口減。

■核エネルギーの平和利用
 核分裂の理論は広島・長崎で「実用化された」。1953年に、アイゼンハワー大統領が原子力の平和利用についての国連演説をする。日本では、それに呼応するように原子力の「平和利用」が叫ばれるようになる。
 1979年のスリーマイル事故。これ以降、アメリカでは30年間、原子力発電所は作られていない。1986年のチェルノブイリ原発事故以降、原発の建設は横ばい。
 原子炉には寿命がある。放射能によって圧力容器が劣化していく。先進国の多くで、原子力発電所は減っていくと考えられる。

■欧米の苦悩と挫折
 原発事故が起こる前から、ヨーロッパでは脱原発の運動があった。
 ドイツでは2010年、福島事故の3ヶ月前に、メルケルが脱原発にブレーキをかけていた。原発の延命をメルケルは考えていたが、福島事故以降、考えを変える。ドイツでは倫理問題が大きかった。将来世代に負の遺産を残してよいのか、という問いかけ。

■エネルギー源の転換
 今回の事故で、原発の致命的な弱点がわかった。テロリストによって狙われる危険性がある。
 原子力と代替エネルギーを比較吟味していく必要がある。
 自家発電の部分を含めれば、需要電力ピークは原子力無しでも大丈夫。しかし、自家発電の部分は電力会社の責任範囲を超えている。
 2003年まで、日本は太陽電池でトップであった。それ以降、停滞。
 過去10年の間、ヨーロッパでは再生可能エネルギーへの転換が進んでいた。現在では、中国、アメリカがトップを走っている。

■再生可能エネルギー
 再生可能エネルギーによって、どの程度のエネルギーがまかなえるのか。
 風力発電:陸上と洋上をあわせると、全日本の電力を理論的にはまかなうことができる。風力発電は太陽光より設備投資が安い。
 しかし、現在、太陽電池モジュールの価格は下がってきている。また日本でも太陽高電力の固定価格買い取り制度が今年から始まった。

■ドイツの危機対応
 倫理委員会では、子孫に負の遺産を残さないという決定をする。
 輸入電力に依存しない計画(この事実はあまり知られていない)。国民一人あたり年5万円の投資。

■再生可能エネルギーの経済規模
 世界の再生可能エネルギー投資額は急増しており、自動車マーケットに匹敵するほどになっている。

■日本学術会議の対応
 学術会議では6つのシナリオを出した(2011年6月)。日本は一定期間、化石燃料への依存が増える。温暖化ガスも増加。
 読売新聞がこの報告を大きく取り上げる(7月3日)。「原発撤退なら月2121円増」(20年後)。これを高いと考える人もいれば、安いと考える人もいた。読売は原発推進であったが、内部では意見が分かれていることが紙面からも、うかがえた。

■洋上風力
 再生可能エネルギーを増やしていくためには、洋上風力を開発しなければならない。洋上風力の設置場所に関して、日本はきわめて恵まれた環境にある。

■日本経済の内訳
 年5兆円の再生可能エネルギー設備投資が必要。
 日本の娯楽費は100兆円/年。パチンコ20兆円/年。日本はかなり余裕のある国であることがわかる。年5兆円という金額で、ひるむ必要はない。
 化石エネルギー輸入代 20-25兆円。再生可能エネルギーが拡充すれば、日本はエネルギーの輸出国にすらなることができる。年5兆円ずつ投資していくと、将来、化石エネルギー輸入代が不要になる。
 日本の経常収支黒字 15-25兆円/年。

■脱原発
 脱原発をするかどうかは、国土面積が小さく、観光の大切な国は、脱原発に向かうという仮説を立てることができる。ドイツ、スイス、イタリア等。

■原子力の根本的危険性
 原子力は放射能との関係を絶つことはできない。原子力は廃棄物を出す。原子力のアキレス腱。

■電力の広域融通
 日本は電力の広域融通ができないでいる。9つの電力会社に分割。融通の弱いところを経産省が補っていく計画を立てている。

■まとめ
原子力の安全性の判断。相対的な判断をする必要がある。
再生可能エネルギーをまず導入してみる。ヨーロッパでは20%まで進んでいる。日本の原発と同じ割合にまで達している。日本もできるはず。

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