小原On-Line

講義・講演: 2010年9月アーカイブ

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 9月23日、京都国際会館で開催されたWCRP(世界宗教者平和会議)40周年記念事業 公開シンポジウム「日本の宗教とイスラームとの対話──まほろば精神とイスラームの平和観」に参加してきました。
 最初に、庭野日鑛・立正佼成会会長や大谷光真・浄土真宗本願寺派門主(右写真)の挨拶があり、その後、エジプトのアズハル大学の先生による基調講演、パネルディスカッションと続きました。

 エジプト、インドネシア、イラン、イラク、パキスタン、パレスチナ、サウジアラビア、トルコなどからイスラーム指導者が来日して、今回の一連の記念事業に参加しているようです。
 「日本の宗教とイスラームとの対話」という大きなテーマですが、普段、対話しているわけではないので、出てくる議論も、おおざっぱなものにならざるを得ません。9月21日付けで採択されたメッセージが配布されましたので、参考まで添付しておきます。やさしい英語で書かれているので、読んでみてください。


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 ほとんどが差し障りのない内容ですが、ジハードの言及しているのはおもしろいと思いました。特に「小ジハード」(lesser Jihad)は「自衛権」を含んでいますので、このあたりがもっと突っ込んで議論されるるとよかったのですが。
 右写真のようなパネリストが仏教・神道・イスラームの立場から短い発表をしました。戸松氏が、仏教はいかなる状況にあっても暴力を否定すると強調されましたので、こうした主張と「自衛権」の問題とが関係づけられると、「対話」の内実が形成されていくのですが、そこまでは至りませんでした。

 上のメッセージ文の中でも言及され、パネルディスカッションでも指摘されていたのが、イスラームはテロリズムとは関係ないということでした。平和を求める宗教はテロと無関係、と言いたい気持ちはわかりますが、それでは問題解決に至らないのではないでしょうか。イスラームに限定する必要はもちろんありませんが、「暴力にかかわっている宗教は、もはや宗教にあらず」「過激なムスリムは真のムスリムにあらず」「宗教が悪用されている」という言い方になってしまうと、見るべき問題の深部にいつまでたっても、ふたをしてしまうことになりはしないでしょうか。

 とはいえ、何のコンタクトもないよりは、こうした日本宗教の代表者とイスラームの代表者の出会いがあることは、はるかに望ましいことです。欲を言えば、恒常的な関係と関心が形成されるべきでしょう。両者とも、互いのことをほとんど理解していないのですから。

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 8月18日(土)、第23回国際霊長類学会大会 市民公開講座「暴力の起源とその解決法」が京都大学百周年時計台記念館百周年記念ホールで開催されました。プログラムは下記の通り。

13:30-13:40 挨拶 江崎信芳(京都大学副学長)
13:40-14:00 趣旨説明 山極寿一(国際霊長類学会会長)
14:00-15:00 基調講演「チンパンジーと人間の戦争の起源」
       Richard Wrangham(Harvard大学教授)
15:20-15:50 講演「狩猟採集民社会と暴力」
       市川光雄(京都大学名誉教授)
15:50-16:20 講演「宗教と暴力」
       小原克博(同志社大学教授)
16:30-17:30 総合討論
       梶田真章(法然院貫主)
       黒田末寿(滋賀県立大学教授)
       小長谷有紀(国立民族学博物館教授)
       長谷川寿一(東京大学教授)

 山極先生の趣旨説明が興味深かったです。日本の霊長類研究は、1948年、今西錦司より始まります。その当時を知っている河合雅雄が今西錦司に、なぜ霊長類の研究を始めたのかと聞いたそうです。答えは「戦争を考え直すためだ」。
 まさに今回のテーマに関係するわけですが、猿を含む霊長類を研究することにより、人間の暴力の起源に迫ろうとする動機付けが初期の頃からあったことがわかりました。
 日本の霊長類学は、世界に10年ほど先駆けて始まったそうです。原因の一つには、日本にはニホンザルがいたことがあげられていました。霊長類研究は、きわめて新しい研究分野であることを認識させられた次第です。

 ハーバードのランガム教授の講演も興味深かったです(右上写真)。組織的な暴力行為へと及ぶチンパンジーのショッキングな映像などを織り交ぜながら、暴力の起源を探り、人間における戦争類型との比較がなされました。ライバル集団を排除するため、という戦闘に至る基本的な動機付けは、チンパンジーも人間も変わらないようです。
 ランガム教授の著作は、『男の凶暴性はどこからきたか』など日本語になっているものもあります。

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 私は「宗教と暴力」と題して話しました。国際霊長類学会という文脈を意識して、人間と動物の関係を織り交ぜました。
 プレゼン用の資料をアップしておきましたので、関心ある方はご覧ください。


 国際霊長類学会には1000名もの研究者が集まり、その内、800名は海外から来たそうです。驚きの数字です。学会終了後、日本国内のフィールドワークに出かけることができるのも魅力の一つのようです。
 この分野、日本がかなりがんばっているように感じました。
 暴力の起源と解決法を考えるとき、霊長類との比較研究というのは、人間のあり方を客観的に見据えるために、きわめて有効な視点であると、今回再認識させられました。
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