小原On-Line

CISMOR: 2006年4月アーカイブ

060406 ローマ教皇庁立聖書研究所のノイデッカー教授が同志社を訪ねてくださいました。
 保守的と言われている上記研究所の中では異色の人物だと思います。禅仏教とイスラームのスーフィズム(神秘主義運動)の発想を取り入れながら、旧約聖書の解釈をした本を書いています。近々、その第2版が出版されるとのこと。
 バチカンでの反応はどうですか、と聞くと「沈黙だね」と応えていました。やはり、他の宗教を取り入れたような研究スタイルに対してカトリックは警戒心が強いようです。
 カトリック司祭が京都に禅をしにやってくる、といった類の交流はありますし、また、ヨーロッパのカトリック世界でも禅仏教は比較的よく知られているはずですが、その一方、他の宗教とカトリック信仰との混合に対する警告の声も時々耳にします。
 その急先鋒がラッツィンガー枢機卿でした。
 そのラッツィンガー枢機卿、つまり、今の教皇ベネディクト16世とノイデッカー教授は旧知の仲とのこと。同じドイツ人同士ですから、交流も深いようです。「彼は実にシャイな人物だったんだけどね」と語っていました。今はそれほどシャイには見えませんけどね。

 バチカンの空気に触れるよい機会となりました。
 ノイデッカー教授はしばらく日本に滞在されます。

 今日はヘブライ語がご専門の小久保先生(大阪大学等非常勤講師)からイスラエルにおけるムハンマド風刺画問題の反応を聞くことができました。
 ヨーロッパにおける「表現の自由」の主張に反発して、イランのアフマドネジャド大統領は、ホロコーストについての風刺画コンテストを開催しました。彼は「言論の自由」とヨーロッパ人たちは言うが、実際にはホロコーストを特別扱いしているではないか、と言いたかったわけです。
 この一種の反イスラエル・キャンペーンに対して、イスラエルでは目立った反応(反発)はほとんどなかったとのこと。私が驚いたのは、イスラエル人が自らホロコーストを茶化すような風刺画を描いているということでした。Israeli Anti-semitic Cartoons Contestというのが開催されており、そこにはこんな風刺画があっていいんだろうか?!と驚かざるを得ないようなものが多数あります。
 小久保先生が紹介してくれたのは、その内の一つで、ガス室に送られるユダヤ人の列を描いたものです。イスラエル人は列に割り込むのが日常茶飯事らしいのですが、この風刺画ではガス室への列に割り込もうとするユダヤ人が描かれています。同じ風刺画をドイツをはじめヨーロッパの国でマスコミが掲載したら、一発でアウトでしょう。
 ヨーロッパ(特にドイツ)では「加害者」であるがゆえに、「表現の自由」を厳しく自己規制し、他方、イスラエルでは「被害者」であるがゆえに「表現の自由」が大きく担保されているという対比構造を、ここに見ることができます。
 「表現の自由」「言論の自由」はいきおい人類普遍の権利として主張されるのではなく、それがどのような文脈で問題とされているのかを丁寧に検証する必要があることを、あらためて考えさせられました。

 また、同席していた手島先生(ユダヤ学)から学んだことですが、ホロコーストを持ち出すのはもっぱら世俗的ユダヤ人とのこと。たとえば、「ホロコースト神学」は神を否定する思想だとのことです。宗教的なユダヤ人がホロコーストを強調することはないのだそうです。このあたりの事情も、日本ではほとんど理解されていないと思います。興味は尽きません。

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