小原On-Line

CISMOR: 2005年5月アーカイブ

050529 28日(土)、CISMOR部門研究会の一つ「一神教の再考と文明の対話」研究会の本年度第1回目の研究会が寒梅館で行われました。
 今年度のテーマは「正典解釈の多様性と民主主義」。手探り状態での出発ですが、初回はユダヤ学に焦点を当てて、手島先生(大阪産業大学)と市川先生(東大)に発表をしていただきました。お二人とも、この分野での第一人者ですから、濃密なお話を聞くことができました。
 正典の位置づけや解釈のスタイルは、ユダヤ教・キリスト教・イスラームそれぞれの中で、固有の幅があるだけでなく、それら相互の間にも共通点・相違点があって、やりがいがありそうです。
 少なくとも国内では、こうした比較研究はほとんどされてきませんでしたので、基礎研究としての意味は十分にあると思います。

 米・ニューズウィーク誌が、ガンタナモ収容所で、ムスリムの収容者を辱めるためにコーランを便所に流しているとの情報を掲載し、アフガニスタンでの反米デモに火を付けたことが報じられました。この事件からもわかるように、ムスリムにとってのコーランの位置づけには独特なものがあります。
 人が敬意を払っているものに対しては、理解できずとも、敬意を払う、という当たり前のことが異文化理解の第一歩であると思います。

 5月19日のニマー氏の講演の動画コンテンツをCISMORウェブサイトにアップしました。日本語要旨はまだですが、英語要旨はすでに掲載されています。
 最近、Webの更新頻度が高くなっています。アラビア語ページはまだ未完成部分が多いですが、英語ページはかなりよくなってきました。
 講演会等の報告をするのは当然のこととして、今年度は何か新種のコンテンツを追加できればと思っています。名案があれば教えてください。(^_^;)

■「中東における宗教間対話の課題」
http://www.cismor.jp/jp/research/lectures/050519.html

 今日はレズラズィさんと、CISMORの新しい研究プロジェクト「教育と宗教政策――中東の教科書における非イスラーム宗教のイメージとその意味」の立ち上げについて話し合いました。
 アメリカや中東各国の関連研究機関とネットワークを作り、CISMORがホストになって企画を進めていくのですが、いきなり大それたことはできませんので、ぼちぼちやっていこうということになりました。
 研究規模はともかくとして、教科書の分析を通じて、中東における動向を探っていくのは非常に興味深いものです。たとえば、イラクでは、1991年(湾岸戦争) 、2003年(サダム・フセイン政権の崩壊)といった時期を節目として、教科書における宗教の記述が大きく変わってきています。
 伝統的には、多くのイスラーム国では、イスラームを最高の宗教に位置づけ、ごく部分的に、その中で、ユダヤ教やキリスト教について(しばしば否定的に)語ることが多かったようです。
 ちなみにレズラズィさんが子どもの頃、キリスト教は三つの神を信じる間違った宗教だと教えられ、その三つの神とは、創造者なる神、イエス、マリアだと教えられたとのことです。もちろん、これはコーランの記述に由来します。
 たとえば、キリスト教の三位一体論批判として、コーラン5,73には次のような箇所があります(井筒俊彦訳)。
 

「まことに、神こそは三の第三」などと言う者は無信の徒。神というからにはただ独りの神しかありはせぬはず。あのようなことを言うのを止めないと、無信の徒は、やがて苦しい天罰を蒙ろうぞ。

 レズラズィさんは、日本に来てはじめて、キリスト教の三位一体論が創造者なる神、イエスそして「マリア」ではなく、三番目が正しくは「聖霊」であるということを知って、驚いたとのことでした。やはり教科書の影響力は侮れません。
 教科書の他に、モスクでの説教、メディアからどのような影響を受けるのか、年齢別にも検討していく予定です。

 中国における反日デモを主導した若い世代は、反日的な内容の教科書によって育ってきたことが、よく指摘されています。日本の教科書問題も大きな課題ですが、中東世界において、若い世代がどのような教科書で、どのような教育を受けるか、というのは、今後の平和構築に大きな影響を及ぼすことが予想されます。
 アメリカ政府は、教科書の「民主化」を進めようと、かなりてこ入れしようとしている様子ですが、それとは違うスタンスで中東の状況を見ることができればと思っています。

 日本の外務省も、教育関係にはODAを出したいという気持ちがあるものの、そこに宗教がからむか、からまないかの見極めが難しく、二の足を踏むことが多いようです。ODAで立てた学校で、イスラーム過激思想が教えられていたことが後になってわかる、という失敗例もあるようです。

■CISMOR講演会「マスメディアと宗教――日本のマスメディアによるイスラーム世界の報道」(3月12日)
http://www.cismor.jp/jp/research/lectures/050312.html

050519 昨日紹介したニマー氏による講演会「中東における宗教間対話の課題」が開催されました。わたしはこのために、京田辺キャンパスでの授業を休講にしました。1年生たちも来ており、休講にした甲斐がありました。
 この講演は非常にわかりやすく、中東の現状や歴史的経緯を知る上で貴重な機会になったように思います。
 ニマー氏のスタンスは、平均的なムスリムの理解とは異なるかもしれませんが、こういう人がいるのかと思うと、希望が持てるような内容でした。
 ニマー氏は、自らの幼少時代を振り借りながら、ユダヤ教・キリスト教・イスラームは対立するものではないこと、信仰の違いが紛争の原因ではなく、社会の不正義こそが問題の根っこにあることを説かれました。
 中東問題がこじれ、社会が不安定になっていく中で、各国にいたクリスチャンたちがいづらくなり、クリスチャン人口が減少していることを説明しながら、同時に、それは中東世界にとって、決してよいことではないのだ、と力強く語っていました。

 なるべく早い時期に、この講演会の要旨や動画をアップしたいと思います。

■CISMOR講演会「中東における宗教間対話の課題」
http://www.cismor.jp/jp/research/lectures/050519.html

050518 明日、講演してもらうことになっているハッサン・アブ・ニマー(ヨルダン・王立宗教間対話研究所所長、元ヨルダン国連大使)氏らと夕食を共にしました。写真中央がニマー氏で、その左は慶応大学のグローバル・セキュリティ研究所所長のアフタブ・セット氏。セット氏は元インド大使。
 外交経験豊かな二人を囲んでの歓談は、知らない世界をのぞき見る知的興奮にあふれていました。

 実は、このお二人はCISMORの活動を非常に高く評価してくださっており、ヨルダン・王立宗教間対話研究所とは具体的な交流協定を結ぶことになりそうです。
 ヨルダンは、中東世界の中でもかなり自由な雰囲気のある国であることを噂には聞いていましたが、今回、そのことを多少なりとも実感することができました。

 わたしは、これまで仏教とキリスト教の対話に実践的に取り組んできましたが、そういう経験を、中東世界における宗教間対話の取り組みにも接続していくことができればと思いました。先方は、そういうジョイントに非常に大きな関心を示してくれています。

■ヨルダン・王立宗教間対話研究所
http://www.riifs.org/

 

CISMORWorld Watch News Vol. 2 イスラエル特集を追加しました。
 昨年のイスラエル旅行の中から、三つのシーンをピックアップして編集しました。それぞれに解説が付いているので、わかりやすいと思います。わたしも少し登場しています。かなり希少価値のある映像ですので、ぜひご覧ください。メシアニック・ジューなんて、普通、お目にかかれませんよ。
 DVDもできあがっているので、DVDが欲しい人はCISMOR事務局に申し込んでください(無料!)。

 World Watch Newsだけでなく、これまでのCISMOR関係の講演会すべてにストリーミング・コンテンツが追加されています。COE関係サイトで、これだけの徹底した情報公開をしているところは他にないと思います。
 CISMORサイトをメンテする上で、もっとも大変なのは、日本語・英語・アラビア語の三言語で情報発信している点です。すべてをup-to-dateに保つのは容易ではありません。

■一神教学際研究センター World Watch News
http://www.cismor.jp/jp/info/wwn/index.html

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